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桜が満開となる季節になった。僕には、去年の桜も終わろうかという季節に見た、忘れられない光景がある。ある河川敷で、歌い踊る数人の男女がいたのだ。ギターを奏でる中年の男性、小さなキーボードを弾く初老の男性、そして、踊っている中年の女性と30半ばくらいの若い男性。彼らは体でリズムをとり、楽しそうに歌っていた。そう、彼らはホームレスであった。 その場所は、ポツンと桜が一本だけ立っていた。遠目には、夜桜を楽しんでいる地元の一家族に見えたかもしれない。しかし、僕はキーボードを弾く男性に見覚えがあった。彼は、近くの橋脚の下にテントを張り、粗大ごみの回収をしていた。 ギターの男性は同じ橋脚の下に住むホームレス、中年の女性と若い男性は少し離れた公園に住むホームレスであった。彼らは以前から交流があり、時折、こういして河川敷で歌ったり踊ったりしていたのだという。 初めて聞いたことなのだが、彼は元々プロのミュージシャンだったというのだ。ミュージシャンを辞めて会社員となったあとは楽器に触れる機会も少なくなり、その後、ホームレスとなってしまったが、あるとき、粗大の中からカシオのキーボードを発見したのだという。なつかしくなって弾いていると、隣のテントの男性も若い頃はエレキギターをやっていたというので、他のホームレスが拾ってきたギターを1000円で買い、いつしか、この4人でこっそりと、しかし、賑やかにパーティーを開くようになったのだという。 音楽は、集う人々の心に喜びと共感を与えてくれる。ホームレスが音楽を楽しんで悪いはずがない。いや、音楽についてはサッパリな僕は、彼らがうらやましくすら思えた。 もうひとつ、驚いたことがあった。実は、工事の関係で橋脚の下から立ち退きを言い渡され、二人の「音楽家」は、3日後にはテントの場所を明け渡すのだという。ギターの男性は西成のドヤへ、キーボードの彼は施設に入ることにしたという。テントを離れるともう楽器を弾くこともないし、ここでパーティーを開くこともない。ギターとキーボードはテントと一緒に処分してもらうらしい。その日が、最後のパーティーだった。キーボードの彼が、いいところで出会ったといったのには、そういう意味があったのだ。 男性がギターを弾きながら歌い始めた。曲は「北帰行」であった。ギターにキーボードの伴奏が続く。ギターもキーボードも歌声も、そのままステージに上がっても通用しそうだった。男女の二人は、肩を組んで体を左右に揺らしている。その上空から、はらはらと桜の花びらが散っていた。まるで、テレビドラマのワンシーンを見ているかのような不思議な光景だった。 PR |
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