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【2024年05月07日10:21 】 |
野宿ヤクザの引退

僕がホームレスのコミュニティと親しくなり始めた頃、「あの男はヤクザだから近寄らない方がいい」と忠告を受けたオヤジがいる。そのオヤジは老齢であったが、目つきが鋭く、年齢に似合わず筋肉質で、夏のことであったからTシャツの襟元や袖の上腕部からは刺青が見えた。コミュのメンバーも些細なことで殴られ、110番通報したこともあったという。

しかし、たとえ元ヤクザであっても、ホームレスである以上、暴力団の構成員でなくなっているはずであり、「あの男はヤクザだ」という言葉は多くの場合、「あの男はヤクザっぽい」もしくは「元ヤクザである」と表現するのが正しい。

そのオヤジと僕が親しくなるのに時間はかからなかった。オヤジは無類の動物好きで、テントの周囲で犬、猫はもちろん、ウサギやオウムを飼育していた。僕は動物の話をきっかけとしてオヤジと距離を縮めたが、些細なことで怒鳴りあいの口論をしたこともある。こういうコワオモテとは本気でケンカして、そのあと仲直りした方が、もっと親しく、より対等な関係になれるのである。(ただし、ケンカするときは自分に正義がなければならない)

そのオヤジが70歳で生活保護を受けることとなり、僕は車で荷物をオヤジの新居まで運ぶ手伝いをした。親父は、25年ぶりに畳の上の生活に戻るのだ。
オヤジの新居に着くまでの車中、僕はオヤジに聞いてみた。
「なんでみんな、ホームレスを続けてるんやろなぁ」
オヤジは、即座に返答した。
「ホームレスしとっても食えるからや」

僕は今まで聞いたことのなかった、オヤジの過去を尋ねた。
オヤジは元はタクシーの運転手であったが、競艇にはまって借金を作ってしまい、取立てがしょっちゅうやってくるので、奥さんが子供を連れて出て行ってしまったのだという。ホームレスになることには全く抵抗がなかった。人を集めてきて、小物を拾わせて売ると、20年前で1日に1万円くらいもうかったという。銅線も集めさせたが、窃盗してもってくる奴がいるので銅線はやめた。そのあと、一般の独身女性に身の回りの世話をさせたり、非合法な金融屋から大金を騙し取ったこともあったという。

最近は、テキヤの仲介とか雑誌販売の元締めで、生活保護なんて受けてなくても食べて行けたというのだ。
「タクシーの運転手なんか儲からへん。水揚げはバクチで消えてまうだけや。頭つかってみいや。ホームレスの方が楽して食っていけるわ」

いやぁ、話を聞いてみたら、なんだか、めっちゃヤクザそのものなんだけど・・・。
「若い頃は、組事務所入ってたけどな。色々あってやめたんや。わしゃ、ヤクザちゃうで。ヤクザとケンカして殺人未遂で6年間ほどぶち込まれとったけどな。そやけど、一般の人には手ぇ出さへんで。一般とか役所に手ぇ出したら、公園で住まわれへんようになってまう」

一応の「わきまえ」はしてるってことか。で、今回生活保護を受ける気になったのはなんでだろう。
「もう年やがな。体がきつくなってきた。生活保護受けろってうるさく言うてくる人おるし、あんたも、何かとしつこいからな。言われてる間が華やと思って、おとなしいにアパート暮らしするわ」
オヤジは膝にのせていた大型のオウムの背中を愛しそうに撫でながら目を細めていった。

普通、ホームレスは心のどこかで元の生活に戻りたいと考えながらも、意欲を十分に持つことができなかったり、きっかけをつかむことができなかったりして、そのままの生活を続けていることが多い。このオヤジの場合は、自ら望んでホームレスとなり、精一杯、ホームレスとして生き抜いてきた、そんな感じすらする。

世間一般では新年度が始まる4月。オヤジにとっては定年退職だったような気がしないでもない.

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【2007年04月01日20:32 】 | 未選択 | コメント(0) | トラックバック()
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